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『日本人の底力』を聞いて 客人:石岡第一病院傷の治療センター夏井睦さん

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本日の客人は、「傷は消毒しない乾かさない」という新しい傷治療の第一人者であり、「傷はぜったい消毒するな 生態系としての皮膚の科学 (光文社新書)」を書かれた茨城県石岡第一病院傷の治療センター夏井睦さんでした。

新しい傷の治療には、「傷を乾かすな」、「消毒するな」、という2つの部分がある。

消毒はしてはいけない。消毒するときに傷に沁みて痛いのは、消毒をすると傷が深くなるからである。消毒液は、タンパク質を分解することで菌を殺す。人間の細胞と細菌の細胞は似ており、しかも無差別攻撃をすると細菌の方が強いのである。細菌は鎧に包まれているため、人の細胞の方が死んでしまう。ばい菌は水で洗えば落ちる。ばい菌といってもしがみついているわけではない。

傷は乾かしてはいけない。ばい菌がいるだけでは傷は化膿しないのである。例えば、口の中はばい菌だらけなのに化膿しない。化膿するには、血の塊などのばい菌の隠れ家が必要なのである。ばい菌が、ぬくぬく育つ隠れ家をなくせば良い。傷を乾かせば治すという考えは19世紀に約100年間続いたものである。ヨーロッパのコッホ博士が、乾燥すると細菌が死ぬことを発表し、乾かすものとしてガーゼが開発された。1950年頃に乾くと傷が治らないとアメリカの医師が気が付いた。人間の体は、残っている皮膚の細胞を増やそうと懸命に努力するが、そのときに培養液が必要なのである。人間と同じように、細胞は水がないと生きていけない。水がなくてミイラとなった皮膚が”かさぶた”である。傷口にはじゅくじゅくして液体が出てくるが、あれば傷をなおす物質の塊であり、せっかく出ているこの物質を閉じ込めれば傷は治るのである。ラップ1枚で覆うだけできずの痛みがなくなる。私は講演会で「いい子が悪い友達にあってぐれた」という例えと使う。いい子が細菌、悪い子は隠れ家、隠れ家さえとってあげれば細菌はいてもかまわない。

こういった話はアメリカでは1950年代からわかっていることであるが、日本国内には臨床に応用する医師がいなかった。また、傷の治療に関しては現場の医師で知っている人がいなかった。医学部で6年間勉強するが、傷の治療という項目はないのである。ケガの外科だけが積み残されてきた。そのことに10数年前に気が付いた。世の中が追いついてこないので異端と言われている。世の中の医者にはまだ知らない人が多い。皆が人力車に乗っている時代に隣の国にでは自動車が走っていたとして、それは車を見ないと気が付かないkとである。私の傷治療は、傷の治り方がポルシェ級のスピードと言われている。

形成外科の学会には入れてもらえない。ほかの医師の患者が私のところですぐに治ると、もとの先生に文句を言うことがある。医師会の先生の治療に文句を言うとくびになる。私はすでに2回くびになっている。仲間の医師500人くらいいるが、半分くらいは個人医師である。

日本では病院にはいたるところに消毒がある。糖尿病の人はインシュリンの注射を打つが、アメリカでは服の上から直接注射し、消毒はしない。北海道の医師が患者の了解を得たうえで、インフルエンザ注射のときに、何もしない、水で流す、アルコール消毒するの3種類を試してみたが、だれも化膿しなかった。

医者になって一年目に消毒はいけないと気が付いた。痔の患者の治療をしたときに、お尻の傷だけは”どうせ汚れるから”と消毒しなかった。一番汚れるところをなぜ消毒しなくても良いのか疑問に思った。ほかにも、キブスの中は汚れやすいが消毒はしていない。

傷の治療はアメリカの研究が軍事目的で進んでいる。アメリカでは、1970年には傷を乾かさないことは定着している。この方法は1990年代に床ずれに応用され、日本でも拡大しつつある。

傷口のじゅくじゅくは、サランラップを巻きつけて一日に一回は水で流して洗い交換すればよい。まわりの皮膚が汗もになってしまうため、一日に1回か2回は水で洗って交換する必要がある。また、この方法ではだめな傷はある。動物にかまれた傷は深い、木の枝の刺し傷も深い。また、血が止まらない傷にも向かない。

かなりの外科の先生が手術後に傷を書毒しなくなり、ほぼ常識となっている。

なぜ一般的にならないのか?組織は大きいほど保守的になるためである。今まで教えていたことを急には変えられない。天動説から地動説にどうかわったか?当時天動説の主張していた先生で地動説に鞍替えした人はいない。若い人の間でガリレオの本が流行し、やがて世代交代したのである。傷の治療法も、あと5年もすれば世代交代するはずである。







とても興味深い話でした。傷を乾かすことはあまり意識していませでしたが、消毒は必ず必要と信じていて、疑ったこともありませんでした。ただ、細菌の消毒液は傷に沁みないタイプが主流であり、この場合は使っても害があるのかないのか、ちょっと疑問があります。ただ、確かにおもしろそうですぐに試せる方法ですので、軽いけがをすることがあったら、是非試してみたいと思います。












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